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2006年12月02日(土)

眠れない(その1)

私は団体で旅行することが苦手だ。
その一番の理由は、他人と一つの部屋で眠ることができないからだ。いびき、歯ぎしり、寝言、寝返り、トイレなどのすべてが気になって眠れない。
ある旅館に、よんどころない付き合いで泊まったときに、うまい具合に寝ついたことがあった。ところが、熟睡の深みにはまっていた時に、突然大木が腹の上に倒れてきた。死ぬかと思ったほどに驚いて目が覚めた。何と、隣に寝ていた柔道三段を自慢していた人が寝返りを打って、太くたくしまい足で私の腹を蹴ったのだった。
それ以来、私はいかなる誘いがあっても他人と寝ることを止めた。必ず個室を取ることにした。
ところが、一人で寝てみると違ったことが気になるのだった。
まず、臭いである。カビ臭かったり、タバコの臭いがあるともうだめだ。次に温度と湿度が適当でないとダメ。廊下や隣室から聞こえてくる音も気になる。そして寝具のあんばいが悪いとダメ。特に枕と掛け布団。
そこに、もしも、蚊が一匹飛んでいたらもうお終いだ。その夜は、眠ることを諦める。
つくづく、弱い人間だと思う。
だが、女性でありながら信じられないほどに強靭な神経を持った人がいることを知って、私は長年にわたってさいなまされてきた劣等意識を白状してしまいたくなった。
その人は、曾野綾子さんである。
 
曾野さんは、「生きて、愛して、尽くして、死んだ」というエッセイの中で、アフリカのマダガスカルにある「アベ・マリア産院」に宿泊したときのことを書いている。
「私は最初の晩、その部屋の臭いと戦っていた。はっきり言うとその部屋には母乳の臭いが染みついていた。」
「私はこの甘ったるい臭気を取るために、夕方まで窓を開けて風を入れていた。夜も開けて寝ればよかったのだが、そうすることを避けたのは、窓に取り付けられた網戸の下の方に、優に五センチはあると思われるほどの隙間があるからだった。つまりそこからマラリア蚊が自由に出入りできるからである。」
「もっとも私はあまり困らなかった。開けて寝たければ、人間の燻製ができそうなほど蚊取り線香を持って来ている。」
「蚊取り線香を夜通しずっと燃やし続ければ部屋の甘ったるい臭気もごまかされるというものだ、と私はこの偶然に感謝していた。」
 
なんとすごい人なのだろう。
マラリヤ蚊―蚊取り線香―臭気の組みあらせに感謝するというのだ。私は、嫌悪し、怖気づき、困惑するばかりなのに。
私が何かの縁でそこに泊まらざるを得なかったとしたら、まず「甘ったるい臭気」に絶望する。次に、マラリア蚊が出入りする穴を発見したら、恐怖感に襲われるのは間違いない。そこで、蚊取り線香を炊く。すると今度はその臭いで眠れなくなることも間違いない。
もしも、3日間泊まらなくてはならないとしたら、間違いなく私は三日三晩眠れないと思う。

カテゴリー: 投稿者 :松井


 
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