涼温な家 住み心地体感ハウス

松井修三の
思ったこと、感じたこと

久しぶりの案内

投稿日:2013年2月19日

事務所で初対面した時から、60代後半に見えるご主人は不機嫌そうだった。

「いい家が欲しいを書いた松井です。どうぞよろしく」

「あっ、あなたが松井さん」

ご主人は無愛想な表情で一瞥して、腕を組み目をそらした。

奥さんがとりなすように、

「急で申し訳なかったのですが、どれだけ暖かいのか体感させていただきたくてやってきました。予約制ということを知りませんで・・・」と小声で言われた。

今日は社員がスキー旅行に出かけていたので、久しぶりに私が体感ハウスへ案内することになった。

一台の車でもよかったのだが、空気が重たすぎたので別々の車にした。

小雪が舞う体感ハウスの玄関を入ってもご主人はコートを着たままでいた。

しばらくして奥さんに促されて脱いだのだが、お二人とも暖かそうなセーターを着ていた。無言のまま家中を見歩くとご主人が2階のホールで立ち止まり、振り返りざま質問した。

「これが涼温換気というのですか?」

ご主人は、空気の感じを“これが”と表現した。気に入られたのか否かがわからないまま頷くと、ぶっきらぼうにご主人がまた質問した。

「どうしてエアコンが1台でなければならないのです?」と。

私は瞬間返事に戸惑った。はっきり言ってこういうタイプのお客様は苦手である。

そこで椅子に座ってもらってその間に答えを考えた。

どのような答え方をすれば理解していただけるか。

省エネのためであることは間違いないのだが、多くの人はエアコンが嫌いである。かといってなくしてしまうわけにはいかない。床暖房も蓄熱式電気暖房もスラブヒーターもやってみた。もし、それらよりも省エネでより快適な冷暖房の方法があるとしたら、あなたは文句なく採用するでしょう。

「それが新換気に1台のエアコンを組み合わせる理由です」

答えをシミュレーションしてから言葉にした。


ご主人は納得できないという表情のまま「ちょっと車に忘れ物をした」と言って席を立った。

奥さんが申し訳なさそうに小声で言った。

「主人は松井さんの本を読んでから不機嫌になりました。16年前に建てたHハウスの家を最高にいい家だと信じ切ってき たものですから、退職して毎日家にいるようになって、暑さや寒さがこんなにひどいものだったのかと初めて知ったようです。この冬は、家に帰ってきてもコートを着たままでいるときがあるのですから。

それだけに本を読んで、自分の選択が間違っていたことに気付かされたショックは大きかったようです。先ほど玄関を入った瞬間に、私もショックを受けました。

こんなにも暖かな家があるのかと。それも1台のエアコンで家中が暖かいなんて。

実は、私は冷え症なものですから夏のエアコンの冷えもつらいのです。この家ではどうなのでしょうか?」


私は、自分も冷え症であるがストレスを受けることがほとんどないと説明した。

戻ってきたご主人がぼそりと言った。

「確かに1台のようだ」

「屋外機を見てこられたのですか」

「そう」

ご主人は相変わらず無愛想だった。


「同じ20度であっても、暖かさには松竹梅があるのですよ。涼しさも同じです。その違いがどうしてできるのかと言いますと、構造・断熱・換気・冷暖房の方法の組み合わせ方次第なのです。とくに換気の方法が大事です。その気になれば、自分の肌に合う質感を選べるのです。

より取り見取りですから、選択が難しいですよ。

地震や火事に対する強さとか、太陽光発電でいくら得になるか、あるいは見積もりの比較で選ぶのは簡単ですが、住み心地の違いを知るのは難しいものです。

これから春夏秋冬に何度でも体感にお越しください」


ご主人は再び腕組みをした。そして傍らの奥さんを見やって、

「あんたの住みたい家は、こういう家なんだろ?」と尋ねた。

奥さんは小さく頷き、しばし沈黙が続いた。

「ところで、この家を建ててもらうにはどうすればいいのですか?」

ご主人の表情が急に別人のように明るくなった。

  • 松井 修三プロフィール
  • 1939年神奈川県厚木市に生まれる。
  • 1961年中央大学法律学科卒。
  • 1972年マツミハウジング株式会社創業。
  • 「住いとは幸せの器である。住む人の幸せを心から願える者でなければ住い造りに携わってはならない」という信条のもとに、木造軸組による注文住宅造りに専念。
  • 2000年1月28日、朝日新聞「天声人語」に外断熱しかやらない工務店主として取り上げられた。
  • 現在マツミハウジング(株)相談役
    「いい家」をつくる会代表
  • 著書新「いい家」が欲しい。
    (創英社/三省堂書店)
    「涼温な家」
    (創英社/三省堂書店)

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