涼温な家 住み心地体感ハウス

松井修三の
思ったこと、感じたこと

過去のブログなんて、だれが喜んで読むんだね?

投稿日:2013年10月5日

(藤城清治著/佼成出版社)


「松井さんのブログは1日どのくらいのアクセスがあるの?」

「平均で最近は900ぐらいだそうです。はじめの頃は、1500ぐらいありましたから減りました」

私の仲間のは、1日10件もあれば上等で、ない日はゼロだそうだよ。一般的に500もあると、すごいとされているようだから、松井さんはさすがだね」

工務店主であるOさんはしきりに感心された。


Oさんとの付き合いは、創業した年からだから42年になる。ときたま、車を見かけるとぶらっと寄せさせてもらって、世間話をする。

工務店主というよりは芸術家といった雰囲気で、思ったことはズバッという人だ。奥さんが陶芸家であり、美術や工芸に関して優れた見識の持ち主なのでデザインなどで教えられることが多い。

設備業者が主催する工務店主の集いで隣り合わせたのが、お付き合いの始まりだった。


だいぶ年上に見えたOさんは、酒を飲みながらこんな話をされた。

「私は、趣味で仕事をしているのだから、儲けは二の次だ。仕事を楽しみたい。だから、自分一人がいい。社員を使ってまで仕事をしたくない。お客様とはよくぶつかるよ。自宅に電話がかかってきて、大声でやり合ったりすると、女房が心配して後からこっそりお客様にお詫びの電話をしたりするときもあるようだ。それでも、私は安易に妥協したくない。

そんな風にして出来上がって、お客様が喜んでくれたときは、それはうれしいね。締めて赤字だってすっかりご機嫌さ。ところで、あんたはどんな工務店を経営したいの?」


Oさんは、優しいまなざしを向けて尋ねた。

「住む人の幸せを心から願う家造りをしたいですね」

私が意気込んでそう答えると、Oさんは語気を強めた。

「松井さん、そんな考えでいるのなら工務店は止めた方がいい。それでは、私と同様に絶対に儲からない。私はね、恥ずかしながらある程度は髪結いの亭主でいられるからこんな席で酒を飲んでいられるのだが、もし、あなたのように考えたらやっていけなくなってしまうだろう。それにね、私は、お客様の都合よりも自分はこうしたいを優先する。それがお客様の都合を優先し、住む人の幸せを心から願わなければならないとしたら、ストレスで潰されちまうだろうね。そんな家造りはしたくないなー」

私が反論しようとしたとき、設備業者の社長が挨拶に回ってきて話は中断されてしまった。


ブログの話をしながら、走馬灯のように42年前の思い出が浮かんだ。Oさんも同じ思いだったのか、ひと呼吸おいて言われた。

「松井さん、あんたはよくがんばっているね。私は10年前に戦意を失った。

補助金行政に適合するためには、申請書類の準備だけでもうんざりだ。次々に打ち出される補助金は、お役人と大手ハウスメーカーには都合がいいだろうが、私のような一人工務店にはまったく不都合だ。手続きのための書類作成に疲弊して店をたたむ仲間も多いと聞く。そんな中でマツミハウジングはがんばっているのだから、たいしたもんだよ。私は、週に3日事務所に出て、ちょっとしたリフォームやアフターメンテナンスをやっているんだが、近々事務所を閉めようと考えている」。


まもなく85歳になるというOさんの顔のしわが寂しげに深まった。

「女房が、あなたのブログを楽しみに読んでいてね。松井さんががんばっているのだから、あなたもがんばりなさいとよくハッパをかけられたものさ。だが私はそのたびに思っていたよ。住む人の幸せをこころから願うという信条は立派だが重た過ぎるとね。人間、正直に言うなら自分の幸せを願うだけで精一杯さ。家づくりは、それではつらくなる。楽しめない仕事は、ストレスだらけでうんざりだよ」。

Oさんは42年前と同じまなざしで同じ主張を繰り返した。

「でもね、あなたはその信条を貫き通しているようだ。敵わないなー。

ところで、ブログを止めることにしたんだってね。女房ががっかりしていたよ。これから3日おきに過去のブログを紹介するんだって?

それは止めておいた方がいいと思うよ。過去のものなんて、だれが喜んで読むんだね?」

私は返す言葉に詰まった。そんな私をじっと見据えて、

「女房のイメージを損なわないでもらいたいなー。女房はね、あなたが家に来て作品を褒めてくれた時から、40年以上ファンになっているのだから。

同じ工務店主でも、まるで違う信条で生き続けてきたあなたのこれからを、楽しみにしていたんだよ。松井さん、あなたにとっては過去ではなく、これからの10年こそが勝負なんではないの?」。

最後の一言は、ずしりと重く感じた。

「私も、常々そう思っています。奥様にお伝えください。ご期待を裏切らないように、これからもがんばります、と」

私は、Oさんの温かな心遣いに感謝しつつ別れを告げて立ち上がった。


「光は歌い影は躍る」を読み終わるやいなや、昨日、新幹線に乗って栃木県那須町に建てられた藤城清治美術館を訪れた。

89歳になられる藤城さんは、御用邸のすぐ近くに、20代の頃から夢に描き続けた自分の美術館を今年実現されたとのこと。アンデルセン、宮澤賢治、聖書、東日本大震災、そして開館を記念して製作された大作まで、キュートなものから重厚なモチーフの作品が多数飾られていた。

どの作品にも、見る人を喜ばせ感動を与えたいという誠心誠意が、惜しげもなくいっぱいに込められている。二階には、仕事場が展示されていて、愛用の傷だらけの椅子があった。そっと背もたれに手を当てると、藤城さんのバイタリティーにあふれた叱声が稲妻のように全身を貫いた。

「74歳の若さで、過去にひたるやつがあるか!生きる道は、現在と未来にしかないんだぞ!」。

  • 松井 修三プロフィール
  • 1939年神奈川県厚木市に生まれる。
  • 1961年中央大学法律学科卒。
  • 1972年マツミハウジング株式会社創業。
  • 「住いとは幸せの器である。住む人の幸せを心から願える者でなければ住い造りに携わってはならない」という信条のもとに、木造軸組による注文住宅造りに専念。
  • 2000年1月28日、朝日新聞「天声人語」に外断熱しかやらない工務店主として取り上げられた。
  • 現在マツミハウジング(株)相談役
    「いい家」をつくる会代表
  • 著書新「いい家」が欲しい。
    (創英社/三省堂書店)
    「涼温な家」
    (創英社/三省堂書店)

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