涼温な家 住み心地体感ハウス

松井修三の
思ったこと、感じたこと

スマホと心の錆 京都の紅葉

投稿日:2016年11月15日

心の錆を落としたくて、嵯峨嵐山の駅前でタクシーの運転手さんに相談した。

「あまり観光客が来なくて、静かに紅葉を楽しめるお寺さんに案内してください」と。

運転手さんは、しばし思案した後で奥嵯峨野の「常寂光寺」を目指した。

寺の縁側に座って、静寂に耳を澄まし、そぼ降る雨に濡れた紅葉の庭園を眺める己が姿をイメージしていたのだが、なんと境内はスマホを掲げる観光客でにぎわい、けたたましく中国語が飛び交っていた。

悲恋の尼僧の物語で有名な祇王寺は、もっと騒がしいと心配したが、立ち寄ってみると観光客はまばらで、期待していた静寂に思う存分に浸ることができた。

雨に濡れる草庵の佇まいは、晴天の時より感じるものがあった。

左に目を転ずると、新緑かと疑うばかりの光景が広がっている。地面を覆う緑色の幽玄な美しさに見とれて、ふと目を転じると、木々の葉の赤や黄色の色づきが殊のほか見事だった。

作庭家の意図に感服させられ、その後はもう観光客の雑音は気にならなくなった。

二尊院では、茶をいただきながらしばし庭を鑑賞した。

「山水に得失なし。得失は人の心にあり」と天龍寺曹源池庭園を造った夢想疎石は教えたそうだ。つまり、庭造りそのものに善悪はない。それは見る人の心にあるのだと。

スマホの性能がどんなに優れたとしても、庭造りの精神を写し取ることはできない。

と、分かっていながら、それを手にする自分の心の錆をつくづく意識させられた。

数多くの紅葉の中で、一番きれいに見えたのは「あだしの念仏寺」の参道だった。片側が常緑樹に引き立てられてか、人の姿が無かったせいか、とにかく心惹かれた。残念ながら、どの写真もその魅力を表現できているものがない。

寺の奥に竹林がある。「竹のトンネル」として有名な野宮神社に通ずる竹林は、気味悪いほどスマホをかざす観光客でごった返していたが、ここは無人であり、竹のささやきが聞こえていた。

愛宕神社の鳥居の前には、一度は寄ってみたいしにせの料理屋「つたや」と「平野屋」がある。

アメリカ人の一行がやって来たが、全員がスマホを手にすることなく、カメラも取り出さず、静かにひたすら肌と心で景色と文化を堪能している感じがした。

この日、もっとも感動したのはそれを見たときだった。

今度来るときはスマホもカメラも持たずにこようと誓った。

心の錆は、きっと落ちることだろう。


  • 松井 修三プロフィール
  • 1939年神奈川県厚木市に生まれる。
  • 1961年中央大学法律学科卒。
  • 1972年マツミハウジング株式会社創業。
  • 「住いとは幸せの器である。住む人の幸せを心から願える者でなければ住い造りに携わってはならない」という信条のもとに、木造軸組による注文住宅造りに専念。
  • 2000年1月28日、朝日新聞「天声人語」に外断熱しかやらない工務店主として取り上げられた。
  • 現在マツミハウジング(株)相談役
    「いい家」をつくる会代表
  • 著書新「いい家」が欲しい。
    (創英社/三省堂書店)
    「涼温な家」
    (創英社/三省堂書店)

アーカイブ

2017年
2016年
2015年
2014年
2013年

▲ページの先頭へ