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2007年10月10日(水)

一丁上がりの家造り

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事務所を出て駅に向かう。西武新宿線に乗り高田馬場で山手線に乗り換える。西日暮里で千代田線に乗り換えて一つ目の駅が「町屋」である。
そこから都電に乗って二つ目の駅を降りて歩くこと5分でO邸に着く。合計の所要時間が約1時間。
車だと2時間は掛かる。
「もし、マツミさんで引き受けてもらえないのでしたら私たちは家の建替えを諦めるつもりです」
奥さんがご家族を代表してそう言われたとき、私の心には熱いものがこみ上げてきた。O邸の敷地に足を踏み入れるとき、いつもその言葉が思い浮かぶ。
 
現場では、大津棟梁が近くのアパートに泊まりこんで腕を振るっている。
「仕事は段取り次第」といわれるが、訪ねるたびに段取りの良さを実感させられる。
「今日も電車ですか?」と大津さん。
「ああそうだよ。チンチン電車(都電)に乗るのが楽しみでね」
「電車のほうが気が楽でいいでしょう?」
「確かだね。ところでアパート暮らしは慣れた?」
「ええ・・・」
大津さんはちょっと気になる笑いをもらした。
「奥さんや子供たちと離れて、寂しいんだろうね」と冷やかしてみた。
「向こうは喜んでいるんじゃないですか」
大津さんの奥さんは大のテニス好き。娘さんは大学のテニス部で大活躍をしている。
「そう言いたくなるようでは、寂しいということだね」
弟子の阿部さんと宇都さんが笑いながら大きくうなづいた。
  
町屋から池袋に出て、埼京線に乗り換え板橋へ。
駅から歩いて5分で三階建てのS邸に着いた。1ヶ月間ほど工事が中断していたのだが、ようやく計画変更の許可が下り工事が再開したばかりである。
いま大問題になっている建築確認申請の大混乱の影響だ。
真柄棟梁は言う。
「姉歯のような悪から家の安全性を守るために法律を厳しくする、それはいいことだと思いますがね、この程度の変更で1ヶ月も工事をストップしなければならないのはおかしいですよ」
「いや、1ヶ月などはいいほうで、2ヶ月以上中断させられているところもあるようです」と弟子の阿部さんが口を挟んだ。
真柄さんは、とつとつと話す。
「知り合いの大工たちは、仕事が急減していると嘆いています。タマホームのような安売り業者が盛んに声を掛けてきているようですよ。手間代をますます下げられても数でまかなえれば何とかなると引き受けるようですが、良心的な人は大工を止めたいと言ってます」
 
国土交通省の考えは、あたかも木造軸組みによる注文住宅を規制したいかのようだ。鉄骨系プレハブの受注が伸び悩み一部のメーカーは赤字に転落している。それを救済するには、工務店のシェアーを分け与えるのが一番簡単だ。
それは法律と制度をちょっといじれば可能になる。
今回の法律改正で一番問題になっているのは、いったん出した建築確認申請の内容を工事途中で変更することは、たとえお客様の利益になるものであっても認めないとするところにある。それでは、プレハブが一番だと国が認めるに等しいではないか。
設計図を時間をかけて完璧に作ったとしても、実際に作っていく過程でもっと良いことに気がつくことはあるものだ。そこが手造りの良さであり、変更に臨機応変に対応できるのが工務店の能力であるが、それはイコール大工の能力なのだ。増改築が大工の能力なくしては不可能なことからもよくわかるであろう。だから工務店は大工を育て、生活を保障し大切にして、大工と一心同体の関係にある。
今回の法改正は、造る側の都合を優先する規格・画一型のハウスメーカーや、安売りビルダーたちを応援するために行われたのに等しい。
気づいてもらいたい。
積水ハウスや旭へーベルは大工を必要としないということに。組み立て、貼り付け、据え置いて、一丁上がりの家造りだ。だから、変更はなく、規制や基準や制度によくなじむ。言い方を換えれば、役所の指導が楽で済む。責任負担が少なくて済むのだ。
家の安全を確保するという大義が、大工の手による家造りの否定につながりつつある現状を知らなければならない。
私には、大工不要の家造り、それが国民の幸せになるとは思えない。
しかし、積水ハウス、旭へーベルなどのプレハブメーカーは、この非常事態の最中に、わが世の春の到来を喜んでいるようである。

カテゴリー: 投稿者 :松井


 
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