<< 不況だから安くなる? | メイン | 上天気の上棟 >>
2008年10月27日(月)
中村吉右衛門の「大老」を観る
NHKのテレビニュースを見ていると、わが国は大不況に突入しているかのような印象が濃くなる一方だ。
首相の太郎は、アンバランスな口角をさらに歪めて景気対策が大切だと当たり前なことを言う。一方、民主党の一郎は、一日も早く選挙を実施し、政権をわがものにしたいと念仏を唱えるかのように繰り返している。
二人の政治家の表情には、まるで華がなく、男気を感じない。
テレビで見るたびに、大義の薄っぺらさにうんざりさせられる。
しかし、歌舞伎公演「大老」の千秋楽を迎えた国立劇場は、別世界であった。
満席のあちこちに着物を着た婦人が多く見られ、中村吉右衛門が演ずる井伊直弼という人物の誠意、誠実に心打たれていた。
「信じる道を貫いて、捨石となる」
「それでよいのでは」
直弼の言葉に、妻のお静は死を覚悟して答える。
この世で、たった一人でいい。おのれのまことの心を知っている人がいてくれる。その幸せに、感極まって妻を抱き寄せる男の苦悩の深さ、美しさ。
庭に咲くあざやかな紅梅を、季節はずれの雪が包む。
明日の朝には、桜田門外で散る命であると、あたかも知っているかのように。
ラストシーンでは、客席にこらえきれない嗚咽が小波のように拡がっていった。
劇場を出て、「桜田門」を見たくなって歩き始めた。
傍らには、3人ずれの後期高齢者と思える女性たちが歩いていた。
「すばらしかったですね」
「やはり、歌舞伎は最高の文化ですね」
「吉右衛門の直弼に、私は惚れ惚れしました」
「いまの政治家たちに、ぜひ見てもらいたいものです」
私は、その一言に思わず声を発してしまった。
「まったく、おっしゃるとおりです。私も、そう思いました」
三人の女性は、一瞬驚かれた様子だったが、すぐに笑顔になられ大きくうなずかれた。
「大義をあやまるな」という大老の最期の声が、太郎と一郎をはじめとして、政治に携わる人たちに届くことを願わずにはいられない。
カテゴリー: 投稿者 :松井









