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2009年06月12日(金)

綾戸智恵さん

忘れられないのは、東京・サントリーホールでの七周年のコンサートです。いつものように車椅子を押して会場入りしたんですが、開演直前になって母が突然「トイレ」と言い出したんです。しかも大のほう。舞台衣装の白いシャツの袖をまくってエプロンをつけて、母とトイレへ直行です。
開演五分前のベルを聞きながら、「ゆっくりね、ゆっくりね。焦ったらよけい出なくなるのだから」。
結局十五分遅れで最初の一曲をダーン!とやった後、お客様に頭を下げました。
「私ごとですみません。実は母をトイレに連れて行っていました。皆さんに十五分だけ甘えました」
ワーッと拍手がわいて、「日本一!」と声がかかりました。でも、そのとき思ったんです。いつか十五分じゃすまなくなる日がきっとくる。そして私は「休もう」と決意したんです。(PHP7月号より)
 
こう語っているのは、ジャズシンガーの綾戸智恵さんである
四年前に脳梗塞で倒れた母を、コンサートのときにも車椅子に乗せて一緒に行くのだそうだ。
綾戸さんは「ない」というような否定語は使わないことにしているという。
この話を、今夜食事をともにした長男との会話の最中に思い出した。
コンピューター関連の仕事に携わっている彼が、「相変わらず仕事がない」と言ったので、「そのような否定語は使わないようにした方が運勢がよくなる」とアドバイスした。
すると彼はすかさず応じた。
「たしかにそうかもね。では、こう言い直すよ。
このところゆとりの時間が増えました」
「ああ、いいね。その表現」
 
綾戸さんは言う。「休む」は次また動き出すための準備であり、自分を「養う」ことだと。母の介護をそのように受け止められる心の持主の歌声を、ぜひライブで聴いてみたい。

カテゴリー: 投稿者 :松井


 
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