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海外視察旅行記
世界に誇れる、
住み心地いちばんの家を目指して

2014年9月
イギリスフランスデンマーク
ロンドン・パリ・デンマーク編

ヨーロッパの機械換気の現状視察

ロンドンにて

ロンドンにて 1

9月23日(火)に定刻より30分遅れて、搭乗機はロンドンヒースロー空港へ実に見事に着陸したのだが、入国審査が予想外に厳しく手間取った。


夕刻のラッシュアワーの中、タクシーはロンドン市内へ入った。

2年前に来た時と比べると、人も車も自転車もさらに増えて、エネルギーとカオスがないまぜになったようなあわただしさに圧倒された。市長自ら自転車通勤をしているというだけあって、自転車の数がすごい。それらが、競輪選手のような勢いで、車をすり抜けるようにして同じ車道を走るのだから、見ていてハラハラさせられる。街中に用意された無料のレンタル自転車がそれに輪をかけて、スリリングな光景の連続に神経が疲れる。

写真のようにサイクリングというようなのんびりした光景は珍しい。


今日は、ロンドンの中心部に位置するパディントン駅から世界最速といわれるジーゼル列車(今後日立製作所が製作する車両に入れ替わるとのこと。途中にすでにHITACHIの車両工場が出来上がっている)に1時間ほど揺られてSWINDN駅に降り立った。

National Self Build &Renovation Center(住宅新築・改築センター)に向かうためだ。前回も訪ねたのだが、まずは最新の住宅情報を知るために今回も訪ねてみたところ、最も関心が高い「換気」に関しての変化はほとんど見られなかった。


タクシー運転手さんの話では、3ベッドルーム100平米ほどの自宅での暖房は、ガス式セントラルヒーティングで9月の末頃から4月の初めぐらいまで使用するそうだ。ランニングコストは厳寒期には100ポンド(約2万円)、平均すれば70ポンド(約1万4千円)とのことだった。

夏は、暑い日はせいぜい2週間程度だから、そんな日は窓を開けて、冷えたビールでも飲んでいるのが最高だそうだ。もし、エアコンが安価でつけられれば使うかと聞いてみたところ「要らないね」と笑っていた。

ロンドンにて 2

(換気部材を見る)

機械換気を究める(久保田紀子記)

機械換気を究める(久保田紀子記)

換気専門メーカーとしてイギリス最大手のAir Flow社のAlan Siggins社長を訪ねた。

2年ぶりの再訪にも関わらず、旧知の友人を迎えるような温かな歓迎を受けた。


2時間ほど会談したのだが、松井さんの質問とAlan 社長さんの答えを要約してみた。


「機械換気というのは、住宅設備の中でいちばん厄介で扱いが難しい分野だと思うのですが、いかがでしょうか?」


<電気工事業者もガスの配管工も資格が必要だが、機械換気の施工は資格がない。

これほど、健康にかかわる重要なことなのに。

人は、空気と水と住むところがあれば生きられるが、こと空気に関しては重要に考えない。なぜなら空気は目に見えないし、あって当たり前のものと思っているからである。

現在は、どこの国でも、室内空気はもとより外の空気も汚れている、だから機械換気が必要なのだという消費者教育が大事だと思っている。当社が換気システムだけに特化した商売をしているのは、正しく換気を行って家の中の空気をきれいにすることは、人々の健康の根幹に関わることなのだから、一番やりがいのある仕事であり、これからますます重要になると考えている。>


「正しいとお考えの機械換気の普及は全体の何パーセントぐらいでしょうか?」


<まだ、10%程度でしかない。ドイツで30%程度。>


「私も消費者教育のために毎週勉強会を開いています。根気よく啓蒙活動を続ける必要がありますね」


<そのとおりです。>


「2007年から義務付けられた中古住宅の省エネラベル制度によって機械換気は促進されているのでしょうか?」


<省エネラベルはAからGまでレベルが分けられているが、F以下となると断熱・気密も悪いので当然、換気も悪いということになる。

断熱改修を施し、当社の24時間換気をつければレベルはB以上になる。

イギリスは圧倒的に古い家が多い。政府は中古住宅のレベルアップをして、CO2削減を図るために、補助金を出して改善を勧めている。オフィスでも太陽光発電・ヒートポンプなどの設備にも補助金を出してくれる。

新築はマンション形式のものまで含めても年間10万戸程度である。>


「日本では、ダクトレス換気のような簡易なもので済ませたいと考える造り手がいるが、そのあたりはいかがなものか?」


<イギリスではダクトレスという言い方ではなく、シングルルーム用の換気だ。ドイツ製と同様の熱交換式のものを当社も販売しているが、それらはあくまでもシングルルーム用と考えるべきだ。>


「機械換気はアフターメンテナンスの手間が付きまとうと思うがそのへんはいかがか?」


<施工やメンテの手間は換気に限ったことではない。フィルターの掃除は基本的にはユーザーがやる。しかし、公営住宅などは高齢化や病気に備え、玄関ドアの上に換気本体を入れて、外からでも掃除できるタイプを納めたこともある。>


「イギリスではフィルターはどれぐらいで汚れるのか?東京では、3週間ほどで真っ黒になるが?」

<イギリスも同じである。ここの事務所も車道に面している方のものは2週間で汚れが目立つ。>


Alan社長は、最後にこう締めくくった。

<機械換気は単純なカテゴリーではあるが、とても奥が深いと思っている。そこに住まう人の健康は、家族の幸せの根源であると考えているので、私はこの換気の仕事を究めていきたいと思っている。とてもやりがいを感じる。

換気は窓開けで十分で、機械に頼るなんてと批判的だったお客様も、実際に使った暮らしを体験するとその良さを感謝してくれるようになる。

普及させるには、情熱を燃やし続けるのが一番だ。>


松井さんの考えと全く同じである。お二人は、機械換気の普及のためにがんばりましょうと固く握手を交わした。

久保田紀子

換気先進国

換気先進国 1
換気先進国 2

イギリスでは、換気は2006年に法律で義務付けられたが、換気の種類は問わない。

日本では、100年以上長持ちするとうらやましがられているイギリスの家ではあるが、隙間には無頓着だった。換気は窓開けが当たり前だったからだが、2016年には新築住宅のゼロカーボン化を図ろうとするに当たり、断熱性能の向上とともに窓開け換気のマイナスに配慮せざるを得なくなり、第一種熱交換換気システムを志向することとなった。

ところが、窓開け換気に慣れきった国民は、なかなかこの24時間換気の必要性を理解しようとしない。そこで、昨日書いたように機械換気メーカーでは、国民に対して啓蒙活動に動いている。 


現状はどうなのか、本日はデベロッパー3社の分譲現場と、リノベーション現場を2か所回ってみた。後者の1現場では、第一種熱交換換気を導入するとのことだったが、他はすべて第三種換気だった。それもセントラル方式ではなく、キッチンの換気扇かユティリティか浴室の換気扇を回して排気し、給気は窓枠の上部にあるスリットからというやり方だった。これは、日本でも20年ほど前まで行われており、私も一時採用したことがあった。

しかし、この換気方法では期待される換気が行われないことが判明し、今ではすっかり過去のものとなっている。


新築分譲住宅のモデル棟に入ると、「だから『いい家』を建てる。」に書いてある「新築のにおい」に包まれた。リビングでは芳香剤の香りが強く、久保田さんがむせ返った。

瀟洒にデコレーションされた部屋を見て歩いていると、息苦しくなる。絨毯なのか、調度品なのか、はたまたカーテンなのか、化学物質であるかどうかは分からないが、わずかながら刺激臭がしていて、とにかく空気が悪い。

換気は一体どうなっているのか?


窓枠の上部にある外気吸入口にティッシュペーパを当ててみても、空気はそよとも入ってきていない。そこで、洗面所の天井に取り付けられている換気扇のスイッチを入れた。びっくりするようなモーター音が唸りだすと、吸入口に当てたティッシュが動く。しかし、これだけの音を24時間我慢する住人はまずいないだろう。ということは、シャワーを浴びた直後はつけて、すぐ止めてしまうに違いない。となると、換気は行われないはずだ。


久保田さんは、しばらく一緒にいたが10分もしない内に外で待っていますと言って出て行ってしまった。

私は、同行した省エネコンサルタントの荒川さんに言った。

「イギリスは、換気に関しては後進国ですね。いや日本が先進国になっているということですね」と。

するとロンドン郊外に住んでいる荒川さんが笑いながら言った。

「100年以上昔に建てられた隙間だらけの私の家の方が、空気が気持ちよく感じます。新築の家は、断熱・気密性能が良くなっている分だけ、空気がよどむ感じが強いですね。昨日、Alanさんが熱交換換気は必須だと言っていたのがよくわかります。この開発業者は、換気は住む側に任せたよと言っているのと同じですね」と。


事務所の責任者に尋ねたら、換気の方法について質問する客は一人もいないとのことだった。客の関心がないのだから、換気は一番簡単なものにしておこうという考えは、古今東西を問わないようだ。

外に出ると、久保田さんが言った。

「涼温な家の空気感って、本当に素晴らしいですね」。