海外視察旅行記
世界に誇れる、
住み心地いちばんの家を目指して
2014年9月
ロンドン・パリ・デンマーク編
ヨーロッパの機械換気の現状視察
コッツウォルズに
「涼温な家」を建ててみたい!


涼温換気は、第一種全熱交換型換気と、エアコンとセンターダクトとの組み合わせで成り立っている。デンマーク製のJenvexは、第一種顕熱交換型換気とエアコンを組み合わせているのだが、室外機を内蔵している点で画期的である。
山形市・仙台市以南の温暖地であるならQ値(熱損失係数)1.9ぐらいの断熱性能があって、窓をトリプルガラスのプラスチックサッシを用い、センターダクト換気にするなら涼温効果を発揮できるのではなかろうか、という思いで、コッツウォルズ(写真の風景は羊が牧草を食み、この地方独特の石積みの塀が手前に見える)にあるイギリスの販売元であるTotal home environment社長のマイケル・ハントさんを訪ねた。
気さくで笑顔の素晴らしいマイケルさんは、話が一通り終わったところで、せっかく来たのだから私の家をお見せしたいと案内してくれた。
私がコッツウォルズを訪ねるのは3回目で、前回は女房と観光地を散策した。世界の観光客を魅了して止まない牧歌的な風景はそのままで、石造りの家々が放つ不思議な魅力も同じだった。
マイケルさんの家は、150年前に建てられたというだけあって、近隣の家々の中でも一際古びて見えた。その古さを奥さんと共々こよなく愛していて、休日を利用しては手入れに余念がない。
(写真の右側に見えるのは、エアコンの屋外気ではなく給湯のコンプレッサーである)
中に入ると、150年前の壁に囲まれた近代的なキッチンをはじめとする設備が、それなりにマッチングして楽しいインテリアとなっていたが、やはり1世紀半の風雪に耐え抜いてきた壁の厚みには、時にめまいがするような重たさを感じさせられた。
広い庭を案内しながら、マイケルさんは言った。
「このあたりに木造の家を建ててみたいと思っている」と。
「それなら、『涼温な家』にしませんか。大工と現場監督を連れてきますよ」と、私は即座に話に乗った。
「設計は、知り合いの設計士に頼むつもりです」
ここで荒川さんが言った。
「設計と言えば、松井さん、この前来られた時に訪問したリチャード・ホークスさんがコッツウォルズで仕事をするという話をしていましたよね」
すると、マイケルさんが振り返って「リチャード・ホークスさんをご存じなのですか?」
と驚いた顔をした。
リチャードさんも、たいへん「涼温換気」に興味を示され、数年かかるプロジェクトなのだが、コッツウォルズに40棟ほどの分譲住宅を建てる計画があるから、その中の1棟に採用を検討してみたいと話してくれた。偶然の話の流れで、マイケルさんと出会い、リチャードさんの話でさらに意気投合できた。
コッツウォルズに、「涼温な家」を建ててみたい。私は美しい雲のたなびく空を見上げて夢を描いた。
デンマーク換気事情


デンマークの首都コペンハーゲンにて、「涼温換気」と同様に、換気とエアコンを一体化したシステムを売りにしているGenvex社のThomas kolleskovさんと会談した。
このシステムは、ドイツのパッシブハウス基準には適していないが、「センターダクト換気」と同じ発想なので、実際に現地の空気を吸って、デンマークの換気事情を知るべく出かけてみた。
私たちには、気温12度、風速5メートルは真冬の寒さだが、デンマークの人たちは秋の格好で平然としており、皮膚感覚の違いを思い知らされた。
2005年からMVHR(第一種熱交換換気)が義務付けられている割には、換気に対する国民の関心はイギリスと同様に極めて薄いようだ。
話の最後に加湿器、除湿機について質問した。
トーマスさんが言うには、「デンマークの冬は多湿なために、加湿器は使ったことがなく、夏も多湿だが除湿機は一切使っていない。
でも、オーストリアでは加湿器が必須になる。
なぜなら低温少湿だからである。
私の友人が、ウィーンでインダクト式の加湿器を販売しているから紹介したい」とのことだった。その場で、ネットで見た限りでは、すぐにでも試しに使ってみたくなった。
荒川さんが「明日行ってみますか?」と、まるで東京から名古屋あたりに行くかのような調子で言った。ヨーロッパでビジネスをするには、そのくらいの行動力があって当たり前ですよと言わんばかりであったが、さすがに返事は出来なかった。
しかし、もし、そのインダクト式の加湿器を実際に使っているお宅を体感させてもらえるなら、近々オーストリアを訪ねたいと答えた。
「デンマークでも換気装置へのアクセス(点検・掃除・フィルター交換)という点では問題を抱えていて、それはドイツのパッシブハウスも同様だ。
この点で、アクセスしやすく、誰でも簡単にできるように配慮された『涼温換気』は素晴らしい発想だと思う。
換気は、金儲けにはならないが住む人の健康にはなくてはならない。日本のビルダーのレベルがこんなにも高いとは驚きだ」
トーマスさんは両手を大きく広げ、心底から感心した様子だった。
翌日、デンマークデザイン博物館へ行った。椅子の展示場である。椅子が大好きな私にとって、一度は訪ねたかったところである。
デンマークでは、冬の日照時間が3時間ほどしかなく、長い夜の暮らしを楽しむために、インテリア、特に椅子のデザインが大事にされている。ためしに座ってみると、あまりの座り心地の素晴らしさに旅の疲れが癒された。
ホテルに戻ると、埼玉県の織田様さんからメールが入っていた。
<台風18号は、首都圏を横断する進路を取りましたが、埼玉県は台風の進路の左半円に入ったためでしょうか、我が家に被害をもたらすことなく過ぎ去ってくれました。
涼温換気のお陰で、台風18号が接近し、過ぎ去るまでの2日間、屋外は相対湿度90%以上の状態でしたが、室内は50%台に維持され、室温も含めて快適でした。>
それでも、
あなたは窓を開けますか?


昨日、午後3時15分に帰国した。
午後7時のNHKテレビニュースは、北京の大気汚染の深刻さを報じていた。
食事後、気になったので外気浄化装置を見に小屋裏へ上った。
ロンドンで書いたように、いまや「第一種熱交換換気」(MVHR)を備えることは、北欧、ヨーロッパの常識になっている。省エネルギーを考えるなら、断熱・気密を強化する。その結果必須となるのが機械換気であり、種類として「第一種熱交換」だという論理がストーンと通っているのだ。
わが国のように、造り手の都合で第二種、第三種どちらでもよく、熱交換も必要ないというのではない。自然換気は論外だ。(イギリスでは暑さ対策上第一種との組み合わせで天窓利用はあり得る)。
出かける前、先月22日に新品に交換したフィルターは写真のように正に「真っ黒け」だった。わずか半月でこんなにも汚れるのか!驚きを新たにした。

そして、ロンドン郊外で見た住宅を思い出した。写真のように二階の廊下の天井に穴が開けられていた。高い脚立を使って出入りするのだという。
「この蓋を開けると、冬は寒いし、夏は暑いし、だから換気装置に近づくことは故障でもしない限りはやらないね。取り付けたのが2年前、それ以来フィルターの交換は一度もしていないよ」
住人は、あっけらかんと答えた。
「それでは、換気の役割をしていないでしょう」
「窓を開ければノープロブレム(問題ない)」。
ドイツのパッシブハウスに匹敵する基準を目指すイギリスのゼロカーボンハウスの担当者が、「換気に対する建築業者や住民の知識が低すぎるために、エネルギー効率の高い住宅のIAQ(室内空気質)が、今後重大な問題に浮上するのは間違いない」と認めていた。
換気装置をおざなりにして、エネルギー効率だけを追い求めるのは間違っているし、本格的な装置を採用する場合、そこへのアクセスを容易にする配慮は絶対に欠かしてはならない。装置のフィルター交換がワンタッチでできるとしても、アクセスが悪ければ住人はやらないし、できなくて当たり前だ。
ここに気付かずして、換気はもちろん断熱・省エネを語るなと言いたい。機械換気が正しく作動しない家は、住宅として認めるべきではないのだ。
イギリス最大手の換気メーカーであるAir Flow社のAlan Siggins社長の言葉を思い出す。
<人は、空気と水と住むところがあれば生きられるが、こと空気に関しては重要に考えない。なぜなら空気は目に見えないし、あって当たり前のものと思っているからである。
現在は、どこの国でも、室内空気はもとより外の空気も汚れている、だから機械換気が必要なのだという消費者教育が大事だと思っている。当社が換気システムだけに特化した商売をしているのは、正しく換気を行って家の中の空気をきれいにすることは、人々の健康の根幹に関わることなのだから、一番やりがいのある仕事であり、これからますます重要になると考えている。>
機械換気、ましてや「涼温換気」は家づくりで一番難しい分野ではあるが、住む人の健康と幸せを心から願うのであれば絶対に真正面から、正直に取り組まなければならないテーマである。
ここでは「ご都合主義」は、許されないのだ。