海外視察旅行記
世界に誇れる、
住み心地いちばんの家を目指して
2016年7月
ドイツ編
ドイツ
「パッシブハウス」を訪ねて
梅雨を感じない
帰国して4日目、時差ボケのせいもあるのかまったく梅雨を感じない。
「涼温な家」は、毎日がサラッとして快適だ。
午後、3時半ごろ久しぶりに犬を散歩に連れ出そうと玄関ドアを開けた。
その瞬間、かび臭く生ぬるい空気に包まれ出かける気が失せてしまった。
犬も、霧雨を嫌ったのか同様だった。
このとき、外気温は25.1度・相対湿度78.5%。
家の中は、温度25.4度・相対湿度49.5%。内外ともに温度はほとんど同じだったが、快適さがまるで違った。絶対湿度を計ると、外が18.2g/kg・内は11.7g/kg。
すでにブログに書いたが、フランクフルトの「パッシブハウス」は同じような気候条件の時に、ほとんどの家の窓が開けられていた。
辺りにはカビのにおいはしなかったが、モワーッとする空気感は同じであり、猫のオシッコの臭いがするところもあった。
こんな日に、窓を開けざるを得ないか、全部閉め切って1台のエアコンに任せられるかが、「パッシブハウス」と「涼温な家」との違いでもある。
もっとも、1台のエアコンで「家中快適」を実現するには、換気の方法を見直す必要がある。
安く、はやく、簡単に
ブロック積の家
ドイツのコブレンツ郊外で、一戸建ての分譲住宅をいくつか見た。
簡単な平板のコンクリート基礎の上に、厚さ20センチのブロックを積み上げる。
室内側に石膏ホード、外側に厚さ40センチのプラスチック系断熱材を掌でバンバン叩いて貼り付けていく。
その表面に金網を張って、薄くモルタルを塗って平らにする。
仕上がりは、さらにモルタルを塗り重ねる家が多いが、ブロックのまま住んでしまう人もいる。
見るからに安普請だが、生活に困ることはないからそのうち自分で仕上げるつもりだという。
安く、早く、簡単に、断熱性能が良い家をつくるにはこれで十分と言わんばかりだが、見れば見るほど味気ない。ドアが納まる開口部を見たら、マツミのお客様は卒倒しかねない。
「これが合理的でいいのです」
と、説明するしかない。
「冗談じゃない。これでは、ブロックを積んでカッターでくり抜いたと同じではないか」
「倉庫だってもう少しはましにつくるだろう」
お客様の怒りは、納まらないどころか火に油を注ぐようなところがあちこちに見られる。
ところがである。
単純明快に断熱性能を高め、性能の良い窓と組み合わせると、肌寒い大雨のときにも、工事中の二階は暖房感がはっきり得られるほどの放射熱を感じることができた。
「地震?」
「そんなもの、経験したことないなー」
職人たちは笑顔で答えた。
ここでは耐震性能は求められない。
「換気?
台所と風呂場についてるよ。必要な時につけて、あとは窓を開ければいいさ。
空気はきれいだよ。近くにはライン河が流れているし」
機械換気もどこ吹く風といったあんばいだった。
高温多湿という気候条件がないところでは、この程度の家づくりで十分なのかもしれない。それにしても、合目的的過ぎていないだろうか?ブロック積みの家はけっこう見かけるが、この段階で住んでいる家もある。ドイツ人の暮らしは、そんなにも苦しくなったのだろうか?
いやいや、セルフビルディングを楽しむためだよとの見方もあるだろう。現実は、そんなものではないようだ。
とにかく、安く、早くこそ最善という需要が増えてきているという。
一方で、高級住宅の箱型化も散見された。
省エネと高齢化
1990年代初期から太陽光発電を活用して省エネに励むことで知られたフライブルクを象徴するような建物としてつとに知られているのが「ヘリオトロープ(ギリシャ語で「太陽に向かう」という意味だそうだ)。
太陽熱を必要とする季節には窓面を、不必要な季節には断熱性の高い壁側を南に向ける。
重さ100トン・床面積200m2の3階建て建物を、直径3メートルの回転する軸で支えるという実に大胆な発想である。
市民であるロルフ・ディッシュさんが、当時の金額で2億円以上をかけて造ったという。
私の関心は、省エネよりも窓の向きにあった。というのは、南側に建つ家の壁が、夏になったら窓に変わったのでは、生活の平穏が乱されてしまうからだ。
実際に現地に行って分かったことは、ディッシュ家は、南側には隣家が迫っているが、東・西・北側は小高い丘に囲まれ隣家がなかった。
これなら窓の向きが変わっても隣家に嫌われることはない。
あいにくディッシュ夫妻が不在で、代わってスタッフの一人であるブーベさんが答えてくれた。
「窓の向きを季節によって回転させるのは、壮大な実験として高く評価します。
しかし、窓の遮熱方法と高効率なエアコンの活用を考えるなら、回転の必要性はないのでは?」
「太陽光発電の効率を上げるためには大いに役立ちます。冷房は、エアコンを使わずに窓を適当に開ければいいのですが、トリプルガラスはたいへん重量があるので、高齢になると扱いが厄介なのは確かです」
私は、そのときハッとした。断熱強化は、窓の高性能化なくして得られない。となると、省エネ・ゼロエネは、窓の扱いという点でも超高齢化時代の住む人の幸せをしっかりと見据えて取り組まなければならない。
四季を通して、窓を開け閉めしないでも快適に暮らせる家、「涼温な家」はその点でも安心で、すばらしいとガッテンしたのだった。