色のある屋根
ご主人が独りだけで契約に来られたお客様がいらした。
そのようなケースはめったにないので、その理由を聞いてみたかった。
契約が終わり、ご主人が話を始められた。
住宅展示場で、盛んに「ゼロエネ住宅」を薦めるメーカーがありました。
太陽光発電をすれば、家の電気代をゼロに出来るというすばらしい提案で、照明や冷暖房費を太陽光で賄えて、上手に節電すれば余った電気を売ることもできる。
年間で20万円ぐらい得になると。そして、2020年からは、そういう家でなければ建ててはならなくなると営業マンから聞いて、これは聞き捨てならないと早速家に帰って女房に話したのです。
すると、女房が言いました。
「だったら、何が何でもその前に建て替えましょう。私は、あのテラテラした黒いパネルの屋根が嫌いなのです。私の夢は、スペインの家のように、オレンジ色の瓦屋根の家がいいわ」。
娘も大賛成でした。
私は反論しました。
「屋根の色なぞ、どうでもいいだろう。住んでしまえば屋根を眺めて暮らすわけでないし、それよりも電気代がタダで使える方が、老後のことを考えたらはるかにありがたいではないか」。
そこで話は落着すると思ったのですが、女房の反論は止みませんでした。
「私が共働きで頑張って来られたのは、いつかオレンジ色の屋根瓦の家に住みたかったからです」。
結論が出ないでいると、テレビでスマートタウンが紹介されていました。すべての家の屋根に太陽光パネルが載っているんです。風景があまりにも殺風景なので、ちょっとショックでした。
女房が色のある屋根を望む気持ちが良く分かりました。老後の人生を豊かに感じるには、家族が「ああ、いい家を建てたね」と喜び合えるのがいちばんいい。
私の考えが変わったことを女房も娘もすごく喜んでくれました。
今日の契約を楽しみにしていたのですが、あいにく二人とも風邪で寝込んでしまいましてね。急に寒くなりましたから。
住み心地のいい家を、ぜひよろしくお願いします。
コラム
- 一条工務店との違い
- 健康長寿の時代の家づくり
- 「エコハウスという魔法」
- 「エコハウス」って?
- 新しい家のカタチ
- 「丁寧な仕事に敬意を払う文化」を破壊する人たち
- 純米酒と父と母
- 心の涙で泣く人間
- からだで感じ、からだで考えるならば
- 先輩の言葉
- 魔法の手
- 妻が喜ぶ家を
- 自足できる家
- ロボットが造る家
- 工務店にしか造れない家
- 91歳で建て替える
- ある精神科医の話
- 住み心地は百薬の長
- 色のある屋根
- 松井 修三 プロフィール
- 1939年神奈川県厚木市に生まれる。
- 1961年中央大学法律学科卒。
- 1972年マツミハウジング株式会社創業。
- 「住いとは幸せの器である。住む人の幸せを心から願える者でなければ住い造りに携わってはならない」という信条のもとに、木造軸組による注文住宅造りに専念。
- 2000年1月28日、朝日新聞「天声人語」に外断熱しかやらない工務店主として取り上げられた。
- 現在マツミハウジング(株)相談役
- 著書新「いい家」が欲しい。(創英社/三省堂書店)「涼温な家」(創英社/三省堂書店)「家に何を求めるのか」(創英社/三省堂書店)