「明るくて広い部屋」
文芸春秋に作家の青山七恵さんが、「明るくて広い部屋」というエッセイを書いている。
フランス西部、ロワール河の河口の街に立つアパルトマンの一室で一人で暮らした思い出である。
どんな広さだったのか?
「東京で借りているワンルームの1室がまるごと10個は入ってしまいそうな広さ」だそうだ。鴨長明は、「立って半畳、寝て1畳」と言ったが、日本人は狭さには適合できるが、広さには戸惑うものだ。
青山さんも最初は戸惑ったようだが、やがて「部屋が広ければ広いほど、人は自省し、慎みぶかくなり、己になんらかの役割を与えたくなるものらしい」と考えるようになる。
そしてある日、「えもいわれぬ幸福に満たされた」という。
住む人と、家が一体化して感じられた瞬間である。
その心理描写は、「いま家、わたくしになってなかったか?わたくしこそ、いま家になってなかったか?」と、芥川賞作家らしい表現だ。
哲学的すぎてすぐには理解できなかったが、「家と人間は入れ子のように、互いをその内に住まわせている」と言い換えてくれていた。
孟子の「居は気を移す」(住まいは、人の心に大きな感化をもたらす)や、チャーチルの「人は建物を造り、建物は人をつくる」という言葉と重ねると理解しやすい。
家づくりに携わってかれこれ50年。
家と住む人の関係について、「入れ子のように」という表現は初めて接したのだが、「涼温な家」に住む人は共感を覚えることだろう。
コラム
- 一条工務店との違い
- 健康長寿の時代の家づくり
- 「エコハウスという魔法」
- 「エコハウス」って?
- 新しい家のカタチ
- 「丁寧な仕事に敬意を払う文化」を破壊する人たち
- 純米酒と父と母
- 心の涙で泣く人間
- からだで感じ、からだで考えるならば
- 先輩の言葉
- 魔法の手
- 妻が喜ぶ家を
- 自足できる家
- ロボットが造る家
- 工務店にしか造れない家
- 91歳で建て替える
- ある精神科医の話
- 住み心地は百薬の長
- 色のある屋根
- 松井 修三 プロフィール
- 1939年神奈川県厚木市に生まれる。
- 1961年中央大学法律学科卒。
- 1972年マツミハウジング株式会社創業。
- 「住いとは幸せの器である。住む人の幸せを心から願える者でなければ住い造りに携わってはならない」という信条のもとに、木造軸組による注文住宅造りに専念。
- 2000年1月28日、朝日新聞「天声人語」に外断熱しかやらない工務店主として取り上げられた。
- 現在マツミハウジング(株)相談役
- 著書新「いい家」が欲しい。(創英社/三省堂書店)「涼温な家」(創英社/三省堂書店)「家に何を求めるのか」(創英社/三省堂書店)